前々回の予告通り次回は「ADC12のマグネシウム (Mg):0.3%以下」品質検査について記述いたします。
3年前、JASIS展示会にてブルカー社員としてブースに立っていたら「ADC12の測定はできるのか?」というお問い合わせを複数いただきました。また展示会以外でも自動車産業に詳しい当時の代理店様から同様のご質問をいただきました。彼らの質問の意図は次の通り。「ADC12にてMgを測定できるハンドヘルドXRF元素分析装置はVantaだけなのか?」そしてその証拠のサイトを提示された。このサイト”https://nihonkaikeisoku.co.jp/works/2043/“ではADC12を測定するためのAl中のMg検出限界値(測定時間60秒)が”780ppm”と赤破線で囲まれていた。ADC12中に許容されるMg濃度は3000ppm(0.3%)以下なので、一見するとこの機材で問題が無いと考えられました。しかし唯一の機材ではないと私は考えて、ブルカーの仕様書をよく見てみると次のような性能でした。
S1 TITAN 800の実力値:(現在、S1TITANは販売終了しており後継機種の”TITAN”シリーズが販売中です。)(販売中のCTXはS1TITANと同じ能力を有しています。)
検出下限(LOD): 145 ppm(約0.015%)
定量下限(LOQ): 0.05%(500 ppm)
ただしこれは180秒間の測定に対する結果でありまさに「検出限界」での測定能力で、条件を同じにするため60秒間での測定と仮定するとその能力は次のように計算できます。
資料の注記には、「個々の元素のLOD(検出下限)は、分析時間の平方根の関数として向上する(Individual elemental LOD’s improve as a function of the square root of the analysis time.)」と明記されています。
この法則に基づき、Phase 2における測定時間を180秒から60秒へ変更した場合のMgの理論的なLODを算出します。
基準値: 180秒測定時のMgのLODは145 ppm
計算式: $\text{LOD}_{60} = \text{LOD}_{180} \times \sqrt{\frac{180}{60}}$
算出: $145 \times \sqrt{3} \approx 145 \times 1.732 \approx 251$
計算の結果、60秒間測定におけるMgの理論的な検出下限値(LOD)は約 251 ppm となります。
さらに、同資料の「定量下限(LOQ)はLODの3.3倍である」という定義に当てはめて計算します。
LOQ(定量下限)算出: $251\text{ ppm} \times 3.3 \approx 828\text{ ppm}$ (約0.08%)
ADC12のMg含有量の規格値は0.3%(3000 ppm)以下です。60秒間の測定で得られる理論上の定量下限は約0.08%(828 ppm)となるため、60秒の測定時間であっても、ADC12のMg規格に対する定量判定は十分に可能であると思われます。
同様の計算を現行品であるTITAN380の仕様書に基づいて計算した結果は次の通りです。劇的に高感度化しております。

当時から件のサイト内容は変更されていないようですが、Vantaは今年バージョンアップされましたので、さらなる性能向上が実現されているでしょう。
しかし新型TITANも旧型から大幅に性能向上しており、これまでとは全く異なる新次元の高性能(簡単にわかることは測定時間の短縮)を実感いただけると思います。
ブルカーTITANにおける感度の大幅な向上は、単に検出器の高性能化だけにとどまらず、検出器と試料の距離を最小化することで実現しています。検出器を試料に近づけすぎますと「検出器の故障」を誘発する主原因になるため一般的ではありませんが、ブルカー製品だけが持つ特長「TITANディテクターシールド(米国特許)」により、検出器が感度をほとんど損なわないままに、しかし強力に保護されています。(TRACER5gにはディテクターシールドが装備されていませんので、F(フッ素)まで測定できる超高感度品ですが、検出器へのコンタミには十分お気を付けください。)
