*本編は完全なる創作物です。登場人物や地名、組織名などはすべて空想上のものであり、仮に現実に合致するものがあったとしてもそれらとは何ら関係がございません。
デンマーク第二の都市オーフス近郊に所在する自動検査システムメーカーであるイィ社はジェイ商事との代理店契約を締結することを決定した後、エヌ氏はそのひな型をジェイ商事に提出した。
エヌ氏はイィ社の担当者と何度かE-mailや電話でやり取りして、またジェイ商事の顧問弁護士と都度打ち合わせをして、イィ社製品の日本での独占販売権をジェイ社に付与する代理店契約書草案を完成させた。後は草案を輸入担当部署の部長へ提出すれば、イィ社とジェイ商事の双方の署名作業などが自動的に遂行される。独占販売契約締結後はイィ社からジェイ商事に販売活動用諸資料が提供される。
ジェイ商事の既存顧客複数へイィ社システムを紹介すると、ある会社からサンプルテストのご依頼をいただいた。自動検査システムを検討する上でサンプルテストは買う側も売る側も非常に重要である。多くの「自動検査システム」の「検査」とは「自主検査」を意味する。公定検査は決まった方式を誰でも実施できるように設計されているため自動化されていることがまず無い。自主検査は企業ごと工程ごとに異なっている秘密事項であることが普通であり、一企業が販売している自動検査システムを顧客がいきなり自社の製造設備へ組み入れることはできない。ここでまず最初にしなければならないことは、「その検査システムが従来の検査方法を代替できるのかどうかを検証すること。」である。イィ社が製造販売する「自動検査システム」は製品の良否を自動判別するものであるため、この場合はまず「良否」の定義を明確にしなければならない。
「良否判定」は実は結構難しい。
例えば1000円札で自動販売機のお茶を購入する場合、当然ながら真正1000円札を機械に入れるのだがこれが必ずしも受け入れられるとは限らない。濡れていたりしわだらけの1000円札は高確率で戻されるだろう。これは自動販売機に求められる機能「不正1000円札を受け入れないこと」を実現するために自動販売機が「完全な真正1000円札のみを受け入れる」という処理をしているからである。「しわだらけの1000円札」はそれが真正品であったとしても怪しいからリジェクトされるのである。
さて、イィ社の自動検査システムを考えてみよう。これは「不透明液体中の固体異物混入検査を自動実行するもの」であり、この一言だけでも検査されるべき顧客の製品と欠陥について定義が必要である。
「不透明液体とは?」、「固体異物とは?」、「異物の形状や色、大きさは?」「検査速度は?」
なぜこれら定義が必要かというと、最終的に「良品は検査を通過させて不良品は確実に取り除く」という機能」が求められるからである。この機能が「自動検査システム」の価値である。
「完全に良品」だけを検査を通過させると「良品なのに不良品と誤判定品」が発生し、生産性が悪くなる。逆に「完全に不良品」だけを検査で取り除くと「微妙だが完全に良品」も取り除かれてしまい生産性が悪くなる。顧客は生産性を上げるために自動検査システムを導入するのでこれでは自動検査システムの価値が無い。よって、「良品なのに不良品と誤判定品」を極力減らして「微妙だが完全に不良品」は完全に取り除くことが求められる。
このためには「不良品」の定義が不可欠である。自主検査である限り不良品の定義は顧客ごとに秘密であって、検査システムメーカーに開示されてこれが検査できることを実証しなければならないため、「サンプルテスト」が非常に重要なのである。これは導入する顧客側での重要事項だが販売する側にとっても重要事項である。イィ社の自動検査システムは従来の目視検査を自動化するものであるから「不良」とは異物の大きさや色、形状などで定義される。また異物が「どんな液体中に存在するのか」によって見え方が変わるため、検査されるべき「製品の液体について」の情報も定義されなければならない。製品液体の物性としては、一定温度圧力下での「粘度、密度」、不透明液体を不透明足らしめている「液体中の浮遊粒子物性と直径、密度」そして「容器の大きさや形状」である。パラメータは非常に多い。「サンプルテスト」とは、実際の良品と不良品のサンプルを顧客が用意し、検査システムメーカーがこれらを使って「良品は通過させて不良品を取り除く能力が、検査システムが有すること」を証明することである。
エヌ氏は顧客と打ち合わせを行い、リスト化された実際の不良品について実物を見ながら個々の説明を受けた。絶対に逃してはならない不良品、取り除いてもよい不良品、異物が混入してるが許容される良品、完全なる良品(最も数が多い)、などである。
サンプル品は全部で数百個あって、これらは顧客によってイィ社へ輸出された。発送する品が液体であるためこれらが安全な物質であることを生産者(顧客)が輸出先の国へ証明する必要があるためである。この証明はサンプル品が日本に戻されるときにも使用される。
サンプルテストを実施するイィ社の責任者へ不良品と良品についての説明をするためにエヌ氏がデンマークへ行こうと社内手続きをした。今回はほかの人が来ても意味が無いのでエヌ氏一人が行く予定だ。すると前回イィ社に同行して何もできなかった輸入担当部署のビイ氏がエヌ氏に苦情を言ってきた。
「スターアライアンスのマイルを貯められないじゃないか。当てにしてたのに。」
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