前回に続いて「メーカーによる差異は何なのか?」について述べる。
*分析の性能
・Ⅹ線管球の性能
→ ターゲット元素、印加電圧、印加電流によって放出されるⅩ線のスペクトルが決定される。試料に照射するⅩ線スペクトルが異なれば観測される傾向Ⅹ線スペクトルも変化するため、どのようなターゲットにどのような印加電圧印加電流を与えるかが各メーカー間の差異となる。
・検出器の性能
→ 検出器の感度は極めて重要である。直接的には測定時間を決定する。検出器の感度がメーカー間の差異となる。
・試料にⅩ線を照射する条件、検出器で蛍光Ⅹ線を取得する条件
→ 適切な部位に励起光を照射し、蛍光Ⅹ線を無駄なく取得するための工夫(Ⅹ線照射部から資料までの距離、試料から検出器までの距離など)が各メーカー間の差異となる。
・取得されたデータの処理方法
→ 取得された蛍光Ⅹ線スペクトルの分析方法が各メーカー間の差異となる。
*分析以外の性能
・カメラ
→ カメラは分析性能に関係しない付属部品であるが、カメラ性能は各メーカー間の差異となる。
・本体と接続されたPC上で動作するデータ処理ソフトウェア
→ 各メーカーにより異なる。
・価格
→ 日本においてブランドを確立しているメーカー品は値下げしない傾向にある。価格は需要と供給によって決まるためブランド品は値下げされない。また私が知る限り主要メーカーは日本に工場を設置していないため、日本医輸入する際に関税がかかる場合がある。
・ブランド
→ 広告などに費用をかけてブランドを維持しているメーカーとそうではないメーカーがある。世界的分析機器メーカーであるブルカーはこれまでハンドヘルドXRF元素分析装置の宣伝広告を他社よりも打っていないように思える。
・原産国
→ブルカー製品はCPTTP条約加盟国のマレーシアに工場を設置している。(輸入時に関税がかからない。)
*メーカー間の差異が無い原理による性能、特徴
・空気中で測定する前提のため、Na以下の原子番号の元素を測定できないこと。
→X線エネルギーの低さ: モーズリーの法則が示す通り、元素の原子番号はその元素が発するX線エネルギーを決定する。Mgより軽い元素(Na、F、O、N、Cなど)から発生する特性X線はエネルギーが非常に低いため、ハンドヘルド用検出器では測定できない。(ブルカー製TRACER5gはヘリウム雰囲気下で原子番号9のF(フッ素)を検出できる。)
また、大気による減衰が大きい。これら低エネルギーのX線は、大気中を通過する際に空気中の酸素や窒素によって容易に吸収(減衰)されてしまう。ハンドヘルド装置は通常大気中で測定を行うため、極微量な信号が検出器に到達する前に失われる可能性が高い。
・漏洩Ⅹ線が存在し、被ばくの可能性が存在すること。また正しく操作すれば完全に安全であること。
→ プローブ部分を平坦な試料面に隙間なく密着させればⅩ線は漏洩しないが、人が装置を手で持って操作する限り、測定中に若干の隙間は発生する。また、試料が低密度物体である場合には線源からのⅩ線が容易に透過できる。よってハンドヘルド蛍光Ⅹ線元素分析装置を走査する上で、Ⅹ線の漏洩は発生しうる。しかしながらその漏洩量は極めて小さいので被ばくによる健康被害は考えられないほど小さい。
Ⅹ線(ほかの放射線も同様)被ばく量は、①被ばくしている時間が短いほど小さく、⓶放射線源からの距離が遠いほど小さく、③遮蔽物があるほど小さい。
そもそもハンドヘルドXRF元素分析装置に搭載されているⅩ線管球は消費電力が数W程度であり、そのうち1割以下がⅩ線として放射される。機材操作中は人体がプローブ部分から遠ざかっており短時間しか被ばくしないので、その被ばく量は自然被ばく量よりも小さい場合がほとんどである。
文化財や絵画などプローブ部分を試料に接触できない(つまり隙間が必ず発生する)場合の操作では、常にⅩ線が漏洩するため、その被ばく量が13週間で1.3ミリシーベルト以上となる範囲が発生するのであれば、その範囲を管理区域としてエックス線作業主任者の管理監督のもとに操作しなければならない。
管理区域が発生するか否か、被ばく量がいかほどなのかは、サーベイメータや放射線量積算バッジなどによる計測が必要かつ十分であるが、測定されるべき放射線に合致したものを採用しなければならない。
上記の内容は2026年4月から義務化された「特別教育」により解説される。
